浦和地方裁判所 昭和51年(行ウ)12号 判決 1979年3月28日
原告 池田武司 ほか一名
被告 西川口税務署長
代理人 押切瞳 鳥居康弘 井上克男 川住純一 ほか二名
主文
原告らの請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が原告池田武司に対し昭和四九年九月三〇日付でなした相続税の更正処分及び同日付でなした過少申告加算税の賦課処分のうち相続税額金一三八六万三七〇〇円及び過少申告加算税額金六九万三一五〇円を超える部分はこれを取消す。
2 被告が原告池田耕三に対し昭和四九年九月三〇日付でなした相続税の更正処分及び過少申告加算税の賦課処分のうち相続税額金八四万六九〇〇円及び過少申告加算税額金四万二三〇〇円を超える部分はこれを取消す。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二当事者の主張
一 請求原因
1 訴外池田喜一郎は昭和四七年九月四日死亡し、原告池田武司(以下原告武司という。)、同池田耕三(以下原告耕三という。)を含む七名がその相続人となつた。
2 原告武司、同耕三は昭和四八年三月五日被告に対し別紙(一)、(二)の各申告額欄記載のとおりの申告をし、かつその申告した相続税額を納付した。
3 被告は原告両名に対し昭和四九年九月三〇日、別紙(一)、(二)の各更正額欄記載のとおり相続税の更正処分ならびに過少申告加算税賦課処分をなした。
4 しかしながら、右更正処分は、被相続人訴外池田喜一郎の遺産のうち別紙物件目録記載の(一)及び(三)ないし(五)の各土地(以下本件土地という)の評価を著しく誤るものであり(その余の課税財産の価額については争わない)、被告の原告武司に対する更正処分のうち相続税額金一三八六万三七〇〇円及び過少申告加算税額金六九万三一五〇円を超える部分、原告耕三に対する更正処分のうち相続税額金八四万六九〇〇円及び過少申告加算税額金四万二三〇〇円を超える部分はいずれも違法として取消されるべきである。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1ないし3の事実は認める。
2 同4は「その余の課税財産の価額」を除きすべて争う。
三 被告の主張
1 課税財産の価額のうち、争いのあるのは本件土地の評価であるからこれについて述べる。
原告らの被相続人訴外池田喜一郎は昭和四七年六月二〇日、訴外原田利一から同訴外人所有の別紙物件目録記載(一)ないし(三)の各土地を坪当たり金二万八〇〇〇円総額金二三九一万二〇〇〇円で買受ける旨の契約を締結し、同年六月二〇日に金八〇〇万円、同年七月三一日に金六〇〇万円及び同年八月三一日に金九九一万二〇〇〇円を各支払つた。更に訴外池田喜一郎は昭和四七年六月二三日、訴外土屋酉蔵との間で訴外田島喜一所有の別紙物件目録記載(四)、(五)の各土地を坪当たり二万円総額金一三〇〇万円で買受ける旨の契約を締結し、同年六月二三日に金四〇〇万円、同年七月二九日に金四〇〇万円、及び同年八月三一日に金五〇〇万円を各支払つた。更に右に述べた夫々の土地の買受の仲介をした訴外有限会社蓮見商事に対し同年八月三一日に金九二万二八〇〇円の仲介手数料を支払つた。
2 本件土地は農地であつたため所有権移転には農地法三条による知事の許可が必要であつた(同目録記載(二)の土地も現況は農地であるが登記簿上原野となつているため農地法上の制限なく所有権は移転した。)。ところが訴外池田喜一郎は、同条の許可を受けないで昭和四七年九月四日死亡した。よつて、相続開始時においては、本件土地の所有権は未だ同訴外人に帰属していなかつたこととなる。したがつて相続財産に帰属するのは、支払ずみの土地代金分二七八九万六〇〇〇円及び訴外有限会社蓮見商事に対して支払われた仲介手数料のうち本件土地分に該当する金六九万七四〇〇円、合計金二八五九万三四〇〇円の前渡金返還請求権である。よつて、課税価額の合計額を算出するに当つて、右前渡金返還請求権額を加算し、原告の主張する本件土地の評価額金二六八万八一九七円を除算すると金二億四九六一万六〇〇〇円(一、〇〇〇円未満切捨)であり、原告武司の課税価額は金一億〇五〇六万一〇〇〇円(一、〇〇〇円未満切捨)となり、原告耕三の課税価額は金三四一五万一〇〇〇円(一、〇〇〇円未満切捨)となる。
そうすると、原告武司の納付すべき相続税の額は右更正した相続税額金三九三二万八〇〇円からすでに納付した金一四六九万五九〇〇円を除算した金二四六二万四九〇〇円、過少申告加算税額は金一二三万一二〇〇円であり、原告耕三の納付すべき相続税の額は右更正した相続税額金一二七八万一五〇〇円からすでに納付した金一一四七万四九〇〇円を除算した金一三〇万六六〇〇円、過少申告加算税額金六万五三〇〇円である。
3 仮に相続財産に含まれるものが右前渡金返還請求権ではなく本件土地の引渡請求権等であるとしても、右請求権等の価額は本件土地についての支払金の合計額である金二八五九万三四〇〇円である。
したがつて本件更正処分には瑕疵は存しない。
四 被告の主張に対する原告の答弁
1 被告の主張1の事実は認める。
2 被告の主張2の事実のうち本件土地が農地であつたため所有権移転には農地法三条による知事の許可が必要であつたこと、訴外池田喜一郎が本件土地について同条による許可が未だ与えられなかつた昭和四七年九月四日死亡したこと、別紙物件目録記載(二)の土地は現況農地であるが登記簿上原野となつているため農地法上の制限なく訴外池田喜一郎に所有権が移転したこと、申告課税価額の合計額には本件土地の評価額として金二六八万八一九七円が計上されていたことは認めるが、その余は否認する。
3 被告の主張3は争う。引渡請求権等の価額は本件土地を農地として評価した金二六八万八一九七円である。
第三証拠 <略>
理由
一 請求原因1ないし3の事実4の事実のうち本件土地以外の課税財産の価額については当事者間に争いはない。
二 原告ら他五名の被相続人訴外池田喜一郎は昭和四七年六月二〇日、訴外原田利一から同訴外人所有の別紙物件目録記載の(一)ないし(三)の各土地を坪当たり金二万八〇〇〇円総額金二三九一万二〇〇〇円で買受ける旨の契約を締結し、同年六月二〇日に金八〇〇万円、同年七月三一日に金六〇〇万円及び同年八月三一日に金九九一万二〇〇〇円を各支払つたこと、次いで訴外池田喜一郎は昭和四七年六月二三日、訴外土屋酉蔵との間で訴外田島喜一郎所有の別紙物件目録記載(四)、(五)の各土地を坪当たり金二万円、総額金一三〇〇万円で買受ける旨の契約を締結し、同年六月二三日に金四〇〇万円、同年七月二九日に金四〇〇万円及び同年八月三一日に金五〇〇万円を各支払つたこと、更に右各土地の買受の仲介をした訴外有限会社蓮見商事に対し同年八月三一日に金九二万二八〇〇円を仲介手数料として支払つたこと、訴外池田喜一郎は、本件土地の所有権を訴外原田利一、同土屋酉蔵から自己に移転するについて農地法三条による知事の許可を得ないまま昭和四七年九月四日死亡したことは当事者間に争いはない。
三 農地法三条によれば農地の所有権を移転するには同条による許可を必要とするから、本件土地の所有権は昭和四七年九月四日の相続開始時点において訴外池田喜一郎に帰属していたものとはいえない。したがつて本件土地の所有権は相続財産に含まれないものといわざるを得ない。
四 被告は、相続財産に帰属するのは本件土地の所有権ではなく、本件土地の代金及び仲介手数料の合計金に相当する前渡金の返還請求権であると主張する。
しかしながら、本件土地の各売買契約が昭和四七年九月四日現在までにおいて解除された証拠がないのであるから、これが解除を前提とする前渡金返還請求権の存在を認めることはできない。<証拠略>によれば訴外池田喜一郎の相続人である原告池田武司は遺産分割の結果、相続開始の日である昭和四七年九月四日現在相続財産に帰属していた本件土地以外の農地のすべてと、前記売買契約に基く本件土地の所有権移転請求権を、相続開始のときにさかのぼつて相続し、昭和四八年六月一一日には、別紙物件目録記載(一)、(三)の各土地について訴外原田利一から、別紙物件目録(四)、(五)の各土地について訴外田島喜一からそれぞれ所有権移転について農地法三条による知事の許可を得ていることが認められる。
五1 相続税法二二条は、相続により取得した財産の価額は特別の定めあるものを除く外時価によるものとしているので、農地の所有権移転請求権(債権)についても、何等特別の定めがないので相続開始時の時価によることとなる。そして、右請求権の時価とは、不特定多数の農地法三条の買収適格者の間で当該農地につき自由な取引が行われる場合に通常成立するものと認められる農地の取得価額に一致するものと解される。
2 ところで、本件土地は、相続開始の日である昭和四七年九月四日の約二ヶ月半前である同年六月二〇日、同月二三日に訴外池田喜一郎と訴外原田利一、同土屋酉蔵との間でそれぞれ売買が行なわれたのであり、<証拠略>によれば、右売買契約における取得価額はその当時において通常の取引価額であつたことが認められるから、本件土地の所有権移転請求権の時価は、昭和四七年九月四日当時における本件土地の取得価額金二八五九万三四〇〇円である。
六 したがつて、別紙(一)(二)の更正額欄記載のとおり課税価額の合計額を、本件土地所有権移転請求権の時価金二八五九万三四〇〇円を加えて計算すると金二億四九六一万六〇〇〇円となり、原告武司の課税価額は金一億〇五〇六万一〇〇〇円であるから相続税は三九三二万八〇〇円となる。右相続税額からすでに納付した金一四六九万五九〇〇円を除算すると、金二四六二万四九〇〇円が納付すべき相続税の額となり、過少申告加算税は金一二三万一二〇〇円である。又、原告耕三の課税価額は金三四一五万一〇〇〇円であるから、相続税額は金一二七八万一五〇〇円となる。右相続税額からすでに納付した金一一四七万四九〇〇円を除算すると、金一三〇万六六〇〇円が納付すべき相続税の額となり過少申告加算税は金六万五三〇〇円である。
七 したがつて被告の本件更正処分には何ら違法は存せず、原告らの請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 石藤太郎 村上和之 並木正男)
別紙(一)、(二)、物件目録 <略>